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固めSS

 今回は固めSSに挑戦、というか単にトチ狂ってまた固めミステリ書いてみたくなっただけなんだけどね。誰が喜ぶんだ?俺が喜ぶんだ。
あ、導入部分だから石像まだ全然出てこないんで飛ばしてOK?かなぁ



始まり
 
 鼻腔に草花と潮が混ざり合う香りが広がった。入江留衣は肺いっぱいにその芳香を吸い込み大げさに深呼吸をした、夏の香りだ。

 「夏休み1週間くらい予定あけられる?」
 始まりは大学の同級生である岩立真由のそんな一言だった。
 「別になんとでもなるだろうけど…何か?」
 「それは好都合!皆で私の別荘へバカンスってヤツに行こうと思っていたの、そこで一緒に課題に取り組もうって話を沙織たちとしてさ、留衣も一緒にどう?行かない?人数は多い方が楽しいし」
 真由はさる企業の社長令嬢と呼ばれるような人種であるらしく、たびたび留衣たちを旅行に誘ってくれるのだった。それもただ誘うだけではない、費用も全て持ってくれるというのだから留衣にとっては『良い友達』である。一方で留衣はそんな真由の太っ腹さに引け目を感じていたのも事実ではあり、また引け目を感じつつも良い様に真由を利用している自分に対して自己嫌悪も覚えていた。
 「えぇ…そりゃまぁ…、でも大丈夫なの?」
 「大丈夫大丈夫―!費用とかは心配しないで、みんな私が持つから!」
 真由はニコニコしながら誘いをかける。留衣はこのまま固辞するのも真由に悪いと思い誘いに乗る事にしたのであった。
 「でも本当の本当に大丈夫なの?旅費くらいはせめて自分で出させてよ?この前みたいに何から何まで世話になりっぱなしってのは悪いからさ」
 「判った判った、そこら辺は後で話しましょーや、えっと予定日だけど…」
 そういった形で留衣達は伊豆諸島から外れた位置にあるこの絶海の孤島に建つ別荘へとやってきたのだった。
 結局、留衣は真由に資金面の話をする事はできなかった。


 「はぁーすげぇもんスねこりゃあ、ホントにザ・無人島って感じっス」
 青い水面に浮かぶ島が見えてきたとき、下船のために留衣の横で荷物を床に下ろして準備していた尾辻友里恵がそう呟いた、心からの感嘆しているのが手に取るように留衣にも判った。友里恵は短髪気味の髪型をバンダナで纏めており、男らしい印象を受ける女性で話し方まで男性の様で、留衣も始めは面食らったものだが付き合ってみると意外と親しみ易い性格だと判り彼女は気に入っている。
「こんなトコにマジで泊まっちゃっていいんスかね?若いうちから贅沢しすぎると駄目だってうちの婆ちゃんが言ってたんスよ」
「良いじゃない別に、真由の方から誘ってきた事なんだし。それとも何?今から船乗って帰る?」
「あ、ヒデェなぁミッちゃん。せっかくの旅行ッスよ全力で楽しむに決まってるじゃないスか」
 友里恵と先ほどから会話しているのは友人の岩田美香。当初美香はこの旅行には不参加のつもりであったのだが出立の一週間前に突然参加を申し出てきたのだった。美香は気分屋なのか時たまそのように相手の都合を考慮しないで行き当たりばったりで行動する女性で留衣は内心快く思わなかったが、そんな美香の申し出を真由は快諾したのだった。
「荷物ありがとうね友里恵さん」
ウェーブかかった長髪を風にたなびかせながら、そう礼を述べたのは奥寺佐織。留衣の友人であり、幼馴染でもあった。一時は家の事情で他県に転居したため疎遠となっていたが偶然、同じ大学に通っていた事が分かり交際が再開した。幼少のみぎりとは大分印象は変わっていたが、それでも留衣はかけがえの無い時間を共に過ごした友人と考えている。
「それに真由さん、本日はお招きいただきありがとうございました。素敵な別荘ですねなんていうか…」
「推理小説の舞台みたい?」
 真由が笑いながら応える。確かにこの別荘が建つ場所は絶海の孤島、正確には小笠原諸島から外れた位置にこの島はある。昔は漁村があったのらしいが現在では無人島となっておりいわば島を丸まる一つ貸し切り状態で所有しているようなものだと真由は誘い文句で述べていたなと留衣は思い出していた。当然、事故や病気があった時にどうするのだと留衣は真由に尋ねていたがいざという時は無線機もあり、携帯電話も通じるのだから心配は無用との事である。実際、電波は届いているようで美香などはちょくちょくと携帯を弄っていた。
「まぁ推理小説みたいな事件は起こるわけが無いから、必要な荷物は前もって運びこんでもらってるし、発電機で電気も来ているんだから私達はただ南の島で遊べば良いってワケ。もちろん私達のうち誰かが殺人鬼で今心の中で舌なめずりしてるってなら話は別だけど、あっ、島に伝わる変な言い伝えとかは特に無いから。残念!」
「さっすがお金持ちは違いますわなぁ、これで課題も無ければ天国なんだけどさ」
などと美香はぼやいて茶化した。

 別荘に到着するとさっそく部屋割りが決められた。配置は留衣は階段真横の部屋、その右の部屋に沙織、そのまた右に物置がある。真由は階段を上がった先にある部屋、言い換えれば留衣の部屋の対面にある部屋を使うとの事で、そこから見て左手方向つまりは廊下の奥に行くに従って美香、友里恵、トイレがある。

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 別荘は玄関に入るとまずそこには談話室兼リビングと表するような広間があり、そこにあるテレビは衛星放送で本土と変わらない視聴が出来ると真由は語る。玄関右手側に二階、つまりは先ほど部屋を割り振られた個室らへの階段がある。広間を挟んで右側の扉の向こうには台所、一方左側の扉はトイレや風呂、洗濯機などの水周りが納められている。

新規キャンバス2kaiのコピー

 各々が自分の荷物を割り振られた部屋に置くと、もう日が沈みかけており今日のところは皆、英気を養おうと自然に決まった。
5人は料理の得意な佐織が作った料理を肴に一階広間で日頃の愚痴や鬱憤を吐き出しつつ、よく言えば女子会、悪く言えば酒盛りを始めている。
「課題課題課題課題課題課題、ホントいい加減にして欲しいわ、あ、コレ美味しい。鶏肉を茹でたヤツ」
どうやら美香はうわばみのようで先ほどからハイペースに飲み続けている。それに比して友里恵は下戸のようですぐにソファーで寝息を立てていた。
「そもそも課題って言っても皆何をやるの?私は詩を読んでレポート」
 留衣が話を差し向ける。
「私は彫刻の仕上げやっちゃうつもり、美香は薬学だったから大変だよねー」
「理系女子は恋にレポートに実習と大変なんでございますよ、お嬢」
 美香は先ほど賞味した料理がよほど気に入ったらしく寝ている友里恵の分まで食べだしている。最近二の腕や胴回りが気になりだした留衣からすれば羨ましい事に彼女はダイエットとは無縁の体質らしく、スレンダーな体つきを維持しており、それを認識する度に、『でもでも、胸の方は私の方があるしー、男子ってやっぱりシテる時胸ばっかり触ってくるしー、って事は女としての魅力は私に利があるって事だよねー』などと留衣は負け惜しみをしてはいるがそれは胸中に納めていた。
「留衣ちゃーん、ちょっと目が座ってるよ?酔った?」
胸に納めても顔には出たらしい。
「そんな事より、佐織はどうなの?」
「どうって…?あ、課題なら大体全部終わらせちゃったんだよねー、量も少なかったし。だからここでは羽を伸ばして遊べる」
「はぁー羨ましい限り!じゃあここで心から楽しんで行ってね」
「遠慮なくそうさせて頂きます」
沙織は真由にそう返答したのだった。

 宴もピークをすぎ、留衣や真由も船を漕ぎ出し始めだすと誰とも無く今日のところはお開きにしようという事になった。周囲には酒の臭いと料理の臭いが篭っており、洗い物も残ってはいるが男の目が無いためか明日の朝洗えば良いと結論し、美香は一足先に眠りついている友里恵を支えながら二階に上がった。
 留衣、真由、佐織の三名はしばらく広間にとどまり他愛も無い話に花を咲かせながら交代で風呂に入っていたが、丁度三名のうちの最後、佐織が風呂に行った頃に階上が騒がしくなった。真由と留衣がどうした事かと二階に上がったところ廊下で正座する友里恵とそれを見下ろす美香の二人がなにやら言い争っている。
「ホント信じられないっ!アンタは変態か何か!?」
「御免なさいッス酔った勢いでつい…」
「ハァ?酔った勢いで部屋に来て、酔った勢いでキスまで迫るのアンタ?気持ちわる…」
「あ、イヤイヤ決してそういうことじゃなくて…」
「ともかく、部屋アンタの隣の部屋なんて嫌だから、誰かと変わってもらうわ」
 このままだとどんどん拗れてしまうだろうと判断し留衣は助け舟を出す事にした。努めて明るい調子の声で提案することにした。
「何々?痴話喧嘩?部屋変わるってのなら美香は私の部屋と交換する?私ってトイレ近いもんだからなるべくトイレに近いほうが良いんだよねー」
 真由も同じく朗々とした調子を作りつつ述べる。
「それとも角部屋の私のトコに移る?景色良いわよー」
「二人ともありがとう。それじゃあ真由さんの部屋と交換させてもらうわ」
美香はそう述べると友里恵をまるで道端に捨てられた生ゴミを見るかの様に一瞥し舌打ちを浴びせてから部屋を移る準備をテキパキと始める。真由も部屋を移るのに従って荷物を纏めるために一旦自分にあてがわれた居室に戻り、廊下には正座を続ける友里恵と留衣が気まずそうに残った。
「その…深くは聞かないけど明日ちゃんと謝んなさいよ?まだ滞在一日目なんだから」
「ホント…酔った勢いだったんス…、そんなつもりもなかったんスけど気が付いたらこんな事に…あのこの事は…」
「判ってる黙っとくからさ」
「恩に着るッス…」
「ねぇちょっとー何かあったんですかー?」
 階下から風呂から上がったらしい沙織の声が聞こえてきて、留衣は一体どのような言い訳をして誤魔化そうかと思案するのだった。

 一日目にしてその様な事件が起こったものの概ねは平和であった。

 二日目朝
 昨晩の酒の影響だろうか、留衣はいつもよりも遅くに目が覚めた。少しばかりの頭痛に顔をしかめるが、顔を洗ってしまえばそれも治まるだろうと彼女はモソモソとベッドから這い上がる。
目覚めて部屋を出るときに留衣は何か違和感を覚えた。だがすぐに『あぁ昨晩のアレで部屋移ったんだっけ』と違和感の原因に検討をつけると洗い場のある階下に向かった。階下の広間には真由がおりテレビで朝のニュースを視聴していた。軽く挨拶し洗い場に行くとその向こうにある風呂場から鼻歌が聞こえてくる。
「おはようッス」
 友里恵らしい。昨晩の事など忘れてしまったのだろうかそれとも謝罪を受け入れてもらえたのだろうか、妙に機嫌が良い様子で朝風呂に浸かっている。
「おはよう」
 留衣は昨晩の件の顛末を聞こうかと思ったが、深入りするのも問題と判断してさっさと洗面など身支度を軽く済ませる。その後広間に戻ると台所の方からカチャカチャという音とパンか何かだろうかが焼ける香りがしてくる。
「朝一番に起きて朝食の準備しようと思ったらすでに美香と友里恵が朝食の準備と昨晩の洗い物してくれてたのよ。『招かれた身なんだからこのくらいしないとね』だってさ、おかげでこうやって朝ノンビリとできるってワケ」
朗らかにそう述べる真由に幾分か押さえた声で留衣は
「昨晩のアレの事ですけど…」
と、尋ねた。
「さぁー?詳しい事は分からないけど仲直りはしたんじゃない?そうじゃなきゃ一緒に朝の仕度やらなにやらをやるとは思えないし」
ひとまずは安心らしいと留衣はこれからの滞在期間が気まずいものにならなくて済みそうだと胸を撫で下ろした。
「起きてこないのは沙織だけみたいね、あの子って朝は遅い方なの?」
「いや、そこまでは…なハズ」
 留衣がテレビの時報を確認するともう9時になろうかという時間だった。そこで留衣と真由は起床を促しに部屋を訪ねるが声をかけても返事は無い。
「昨晩飲みすぎたのかな」
 などと留衣は判断したが、真由は少し心配げな表情を見せつつ
「でも飲みすぎたのなら寝ゲロしてたりすると不味いしちょっと開けて様子みようか」
と言い扉を開けた。
 部屋には別段以上は無かった。ベッドも別段乱れてはおらず荷物も散乱しているという事も無い。ただ一点が部屋を尋常ならざるものにしていた。部屋の中央に石像が据え置かれていたのである。


続く

続くかな?
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